Herbert, Wolfgang: Japan nach Sonnenuntergang. Unter Gangstern, Tagelöhnern und Illegalen. (日没後の日本。やくざ、日雇いと不法滞在者の間で.)Berlin: Reimer 2002
[2. Aufl. 2004]

この本は長年の日本社会周辺でのフィールドワークの纏めと十何年の裏社会の研究の実り。著者が付き合った、やくざ、日雇い、彫師、水商売の女性たち、不法就労者等の実話と伝記を語りながら、その背景にある「客観的」な社会の仕組み、裏文化とその歴史を描写している。参与観察、口述歴史と関係文献の精読等の方法で、題材を集め、文章にした。
この本の前半で登場する「安藤」は、三人の実在する人物をそれそれの匿名を守るために一人の人間として「作った」主人公の一人だ。彼が語るライフストーリーは、現場で耳にした実話を組み合わせた話。「安藤」は元やくざで、釜ヶ崎(日雇い労働者が集中的に住んでいる地域ー寄せ場)の鳶職だ。やくざの部屋住み時代のことから現在の日雇いの生活様式までいろいろ教えてくれて、著者(と読者)を寄せ場に案内までしてくれる。毎日の工事現場に行く過程(「人夫だし」という斡旋業者をへて)、仕事ぶり、失業時(あぶれる時)の生存の仕方、福祉の施設、夜の遊び等についての話が、全部この本に記録されている。日雇い(あんこ)の人生を生き生きと描写されている。著者が何年もの間、調査の為に、頻繁に釜(あんこが自分の所をこう呼ぶ)に足を運び、いろいろな人に出会った。日雇いだけでなく、労働組合の人、廃品回収業者(ばたや、くずや)、職業安定所の従業員、居酒屋の店主等の話を情報源にした。当時のフィールドワークの未出版の記録書の一部がこの本の一つの章にもなっている。また別の章では、著者が1990年と1992年に釜で勃発した暴動を目撃した事、その背景についての取材も紹介している。
著者が、釜で夜店を仕切っている山口組系の的屋の若頭補佐に気に入れられたせいか、彼の威張るための「飾り物」(「おれの組がほんまに国際化しとるで」というせりふでいつも紹介された)としていろいろな店につれていってもらえた。「飾り物」役の見返りとして、様々な内部情報を聞いたり、現場での行動(例えばみかじめ料の取り立て、喧嘩の仲介)を目撃できたりした。これらの内容もこの本に生々しく描かれている。また、このようなルポ的な面だけでなく、犯罪学者、人類学者、警察、記者の論文と文献を調べ、やくざの歴史、価値観、組織の在り方、経済的と社会的な役割、彼等の資金源、スタイリング(服、髪型、入れ墨、車など)、儀式としきたり、掟とライフスタイルまで学術的に描写している。やくざの大衆文化の中の位置、歌舞伎から現在のやくざ映画と実話師の「極道ジャーナリズム」まで分析。警察と法律とやくざの関わりとその「いたちごっこ的」関係も話題にしている。
やくざが深く関わっている水商売の世界も登場。特にホステスや「興行師」として働いている外国人の女性のことを話題にする。また現場で耳にした実話を一人のフィリピン出身の人の語りとして紹介。その文脈で不法就労と外国から流入している組織犯罪と売買春の問題を解析。
この著書では、日本のもう一つの面(裏面)を紹介しようとした。これらの社会問題とみなされている事はどの国にも存在している。具体的な「内容」と形が違うだけだ。日本の裏文化は外国であまり知られていないため、そのすべて(惨じめな所も「魅力的」な所も)紹介した。社会の周辺に置かれている人の中で、余儀なくそこに居る者も大勢いるが、主流社会の様々な束縛からの解放を求めて、「自由奔放」な行き方を選んでいる者も多い。アングラで暮らしている人間に対しての先入観と差別を正すことと彼等の人間性と生きる勇気を描写することによって、人々の裏社会への理解が深まることがこの本を書いた動機でもあった。当時付き合ってくれた方々に感謝している。著者をアウトサイダーとして受け入れてくれたが、アングラの人間と関わることは楽しく面白い面もあるが、大変しんどい面もある。著者が年をとるにつれ、もう寄せ場とやくざの世界とはまったく関係なくなった。「足を洗った」と冗談で言うんだが、研究テーマとしていろな意味での収穫があった。自分の人生観にも影響を受けた。世の中はけっして勧善懲悪の世界でないとはっきり分かった。いろいろな生き方についての寛容度も高まった。この作品ではこういうことも伝えることを試みた.