Herbert, Wolfgang: Foreign workers and law enforcement in Japan.
(日本における移民労働者と治安悪化論)

London & New York: Kegan Paul International 1996

 

        日本に外国から流入する労働者の社会に及ぼす影響を分析した著書。特に警察が唱えている「外国人が増加すると治安が悪化する」という論議を綿密に検討することを試みた。犯罪統計の解析とマスメデイアの外国人の犯罪事件の取り上げ方の問題点を踏まえて、治安悪化論がフィクVョンである事を立証している。

        この本はドイツとオーストリアの外国人労働者の受け入れ状態と日本の現状を比較する観点で書かれている。まず国際的な移民労働についての諸理論を紹介。それからドイツで活発に議論されていた「下層流入論」に触れる。経済格差によって、外国から入って来る労働者が現地の人ェ回避するいわゆる3ki (汚い、きつい、危険)の仕事に着く事になり「新しい下層」を形成し、将来的にいろいろな社会問題(住宅、労働市場分裂、賃金低下、失業、二世代の教育、犯罪等)に発展する要素を抱えていると主張。この論議は日本でも(特に「鎖国派」に)人気を呼んだ。この本では、主に日本の1990年の出入国管理および難民認定法(入管法)が改訂された1980年代の状態を描写している。当時の議論の中では「開国派」が日本の社会の活性化のために外国人をもっと積極的に受け入れるべきだと主張し、「慎重派」は法律で外国人の入国を規制すべきだと提言した。1980年代のバブル経済が、アジアの国々からの入国する人の圧倒的増加に拍車をかけた。観光者、留学生、就学生、研修生、興行師、結婚相手、亡命者等として入国し、資格どおりの目的をはたし帰国した者も多いが、場合によっては不法滞在になったり、「資格外活動」(不法労働)したりする人も出てきた。後者は「社会問題」として見なされるようになった。

        日本では外国人が「出稼ぎ」目的で「単純就労者」として活躍するための入国資格がない。しかし、労働需要の存在故、人が「流れて」くる。その「流れ」を管理するのは斡旋業者(ブローカ)だ.高い斡旋料を取り、その「借金」の返済を要求する。給料からのピンハネ、労働力の��謔ェ日常茶飯事だ。こういう状態におかれている「不法労働者」は犯罪の加害者になりえるが、より犯罪の被害者になりやすい位置におかれている。にも関わらず警察はブローカを取り締まるより、外国人を常に怪しい存在として、潜在的な犯罪者であるかのように疑っている。そしト日本の一般市民より厳しい目で見たり、定期的に集中的に取り締まったりする。こういう選択集中的注目のせいで外国人が大袈裟に犯罪統計に現れることになる。住民もそれに加担する。外国人についての苦情がでると、すぐ警察を介入させたり、匿名の電話(密告)をしたりする。栫Xデマや新聞の記事などによって犯罪パニックに落ちいることもある。マスメデイアは凶悪犯罪だけ取り上げ、見出しには必ず「外国人」や国籍を書く。警察が「作って」いる犯罪統計をそのまま鵜呑みにして、「外国人による犯罪が急増」という特ダネも頻繁に出される。そのことノよって犯罪恐怖を煽る効果さえある.世論調査にも反映される。外国人が犯罪をおかす存在だというイメージが強くなる。マスメディアの歪んだ報道の結果である。この本では主に全国紙の外国人の犯罪についての報道を以上のように徹底的に分析している。

        毎年警察白書に紹介される犯罪統計の内に「来日外国人による犯罪」の数字も公表される。そこでは警察が外国人の犯罪率と日本人の犯罪率を比較し、外国人の率のほうが高いと「証明」しようとする。しかしその「比較」のベースが明かに不適当である。この本の一つの章では、ドCツで犯罪学者が数十年前から研究している、外国人の犯罪についての理論と調査の結果を詳しく紹介している。結論として外国人の犯罪率は適切なドイツ人のコントロールグループと比べると、けっして高くないと分かる。同じ方法で日本の警察が出版しているデータを検討すると、ッじ結果がでる。例えばいわゆる不法就労者だけの犯罪率を割り出してみれば、来日外国人全員の人数が間違った比較基盤になる。その上日本人の全人口と比較することも、もちろん適切ではない.年齢、性、学歴、職業、在住地域等の同じ背景を持つ日本人だけが正しい比較の対象(Rントロールグループ)になる。この指標をすべて考慮し、数学的に厳密に計算するのは難しいが、そうすれば外国人の犯罪率はそれほど高くないと示すことができる。また警察がだしているデータは、本当は「犯罪数」ではなく「検挙数」つまり「容疑」である。外国人の場合、検察フ段階で微罪であっても全件起訴主義が働いている。裁判でも起訴率が高く、判決が重く、執行猶予率が低いという事は、弁護士の調査でもはっきり証拠されている。一般予防のレトリックの結果でもあるだろう。国選弁護士と通訳の問題も深刻だ。とにかく裁判の外国人の有罪のアウgプットが高く、かれらの犯罪が多いというイメージが強調されることになる。これがまた管理行政と法の規制強化の正当化に利用される。

        「外国人が増えると、社会問題に成る」という恐れは、突然あるいは大量の移民流入を経験しているどの国にもある。この様な固定観念が住民、政治家、官僚、経済界、警察、報道機関等の込み入った相互関係によって社会問題を生む(構築する)ことになるということを、ここではtィードバックモデルを使って明白にしている。このフィードバックモデルは普遍的な仮説として、時代と場所を越え、ほかの社会の状況にも当てはめることができる。この著書ではドイツと日本を具体例として取り上げているが、移民労働研究、社会学、犯罪学、人類学一般でも意義持つことであると確信する。