W. ヘルベルト

現在話題となっているニューエイジ思想(精神世界)とは何ですか?

ニューエイジ(New Age)は、西洋占星術の、愛と平和とスピリチュアリティ溢れる水瓶座の「新しい時代」という言葉から派生しています。

狭義のニューエイジ運動は1950年代イギリスの小さなコミュニティで始まりました。

共同生活によって「新しい時代」に合った生き方を実践しようとした動き(フィンドホーン等)があり、その「新しい時代」の光を持ってる人間達のバーチュアルな繋がり(light groups)があると考えた人もいました。その「バーチュアル性」は今でも大きなスケールで残っていると感じます。

1970年代には欧米で社会運動になり、ニューエイジ思想をもつ人々が大きな社会・文化運動に参加しているという自己意識を持つようになりました。広義の意味でのニューエイジ運動です。ニューエイジの信仰者の連帯感を高めた当時の代表作としてマリリン・ファーガソンの「アクエリアン革命 —‘80年代を変革する「透明の知性」があげられます。

もう一人の有名なスポークスウーマン、シャーリー・マクレーンは「アウト・オン・ア・リム/自分探しの旅」という自叙伝で、自分の前世と千里眼の経験と人生の意味について書きました。この本はベストセラーになり、1987年にテレビのシリーズにもなりました。大衆の間ではそれがニューエイジのイメージとなり、それに違和感をおぼえるニューエイジの人々は彼等の思想をスピリチュアルと呼ぶようになります。スピリチュアルという言葉は1990年代にニューエイジ的な思想の包括的な用語として一般的に使われるようになり、その思想は主流文化へと浸透することになりました。

1978年 東京のブックフェアで宗教コーナーの隣に、「瞑想の世界、特集:精神世界の本」というコーナーが設けられ、そこには主に和訳された欧米のニューエイジの本が並べられていました。それ以来、日本では、ニューエイジを「精神世界」と呼ぶようになりました。1980年代に入ると、どの本屋にも精神世界というコーナーができ、並べられる本も急激に増えていきます。内容を見ると、以下のような分類ができると思います。

社会系:ディープエコロジー(生態系)、ガイヤ説

地球が生きる有機体であり、人類の活動によって、傷つけられうるものと考え、環境保護運動などを展開

ニューサイエンス/ニューパラダイム:物理学、医学、哲学、心理学、において、還元的な唯物論と「科学主義」に反論し、全体論を説く

癒し:心身のヒーリングと自己変容、自己開発セミナー、精神療法、前世療法、整体、気功、風水、ヨガ、ボディワーク、アロマセラピー、オーラソーマ、パワーストーン、等

スピリチュアル系

東洋出身のグル(精神世界の師—和尚ラジニーシ、クリシュナムルティ、ヨガナンダ、マへシ・ヨギ、チョギャム・トゥルンパ、グルジェフ等)、New Religious Movements = NRMs (新宗教運動)

神秘主義:世界のあらゆる宗教の実践(祈り、祈祷、観照、瞑想、ダラニ、様々な修行)による体験を比較して共通点を探る

新異教主義(neo-paganism):西洋でのキリスト教以前の宗教、または弾圧された信仰、 民間宗教、呪/魔術の復活,日本では古神道、修験道、密教など

オカルト系(秘学): スピリチュアリズム、チャネリング、霊媒、降霊術、臨死体験、輪廻転生、占い、古代文明、心霊現象、UFO、超能力 等

スピリチュアルには少なくとも二つの意味があります。

SPIRITは、神仏、大いなる力、空、などをさし、スピリチュアリティとは人間の「魂と超越」(SPIRIT)との繋がりの意味でよく使われます。

一方spiritは、霊、亡霊などの意味です。

現在、人気の江原啓之はスピリチュアルという言葉を使いますが、霊界、霊、守護霊との交信の話が主なので、ここではオカルト系に分類されます。

これまでニューエイジ思想は、主に1960年代に欧米の若者の間で広まった対抗文化とヒッピー世代の東洋の宗教、哲学、瞑想との出会いから生まれたと考えられていました。最近では、Antoine Faivreと彼の研究グループが、ニューエイジ宗教の西洋におけるルーツに目を向けてきました。「ニュー」エイジの理念は決して「new」ではなく、歴史を振り返ると、古代ギリシャの哲学の伝統の中にも、ピタゴロスと彼の学派のような輪廻転生を信じている、神秘主義的な考えをもった者もいました。

西洋でキリスト教が支配的な宗教になってから、このような信仰、あるいはグノシス派の思想等が抑圧されるようになりました。それらは潜流としてずっと伝わって来ましたが、特にルネッサンス時代、新プラトン派哲学の再発見と自然科学の発展の影で、占星術、錬金術、秘教主義(esotericism)、とカバラ(ユダヤ教の神秘主義)などが流行しました。

ニューエイジ思想と直接関係のある人物として必ずあげられるのが

Emanuel Swedenborg (1688-1772)Franz Anton Mesmer (1733-1815)です。

Swedenborgは、天才的な自然科学者、発明家であり、採鉱学者でもありました。彼が56才の時宗教的な危機にあい、突然、幻を見たり死後の世界に「旅」する経験をしたりしました。その体験についての代表的な作品として「天界と地獄」を発表しました。今のニューエイジのオカルト系の元祖であると言っても過言ではありません。Mesmerはウィーン大学の医学部をでた医者で、磁気と催眠術を使って新しい治療法を見つけようとしました。そして、人間の体に微細なエネルギーが流れていると気付き、そのエネルギーを「動物磁気」と呼びました。発想はアジアの「気」に似ていて、理論的な説明も霊気の理論に酷似しています。メスマーはニューエイジのヒーリング系の先駆者です。

両者の思想が移民などによってアメリカまで野火のように広がっていきました。結果として十九世紀にニューソート(New Thought)とクリスチャン・サイエンス(Christian Science)の精神的な治療法に端を発する心理療法兼新宗教的な運動が展開され、心が物質を支配するという形而上的なそれらの世界観がニューエイジに再登場しました。

3つ目の柱としてあげられるのが神智学会です。ニューエイジに及ぼした影響は計り知れません。1875年ニューヨークでHelena Petrovna Blavatsky (1831-1891)Henry Steel Olcott (1832-1907)によって設立され、まもなく本部をインドのチェンナイ(元マドラス)に移しました。植民地全盛時代であったにも関わらず現地の宗教と信仰を見下さずにそこに秘められた真理を探ろうとしました。どの宗教にも一部の真理があると信じ、特に神秘主義をとおして宗教の共通点を調べました。比較宗教学が学問として存在する以前にすでに比較宗教学的な営みを行ったのです。

ブラバツキーは、ヒマラヤの山奥で修行したり、この世に降りて来ず虚空の世界にいる、精神世界の偉大な師が存在していると主張し、それをマハトマと呼びました。彼女はそのマハトマたちからメッセージを受け、多作の執筆者になりました。それはチャネリングに他なりませんが、チャネリングという言葉は、その後1950年代UFOマニアックが地球外生物からうけたメッセージにつけた呼び方です。ブラバツキーはスピリチュアリズム(霊媒術)と深い関係があったもので、ニューエイジのオカルト系に影響をあたえました。

オルコットはスリランカで仏門にはいり、最初の「白人の仏教徒」として、現地の仏教の復興活動に多大な貢献をしました。神智学会がヒンドゥー教と仏教の教えを欧米に伝播した業績もあります。そのおかげでkarma()maya(魔力、虚妄)nirvana(涅槃)あるいはreincarnation(生まれ変わり)がいろいろな欧米の言語の中で一般的に使われるようになりました。

神智学会から脱会した者として有名なのはAlice Bailey (1880-1949)Rudolf Steiner (1861-1925)です。2人ともそれぞれの組織を作り、広範な活躍をしました。前者の文献はオカルト系とチャネリング系のニューエイジの人がよく参考にしています。後者は人智学会を作り、その哲学をいろんな分野で生かしました。日本でもオーガニック農法、シュタイナーの自由教育の学校で知られています。

ニューエイジ運動はチャネリングなどによって啓示宗教と呼ぶ学者もいます。その「宗教の教義」の例としては次のようなものがあげられます。

新しい「スピリチュアル」な時代の到来がある。(中にはキリストが再臨、弥勒菩薩、未来の救世主が到来すると信じる人もいる。終末論的な考えもある。)

個人と社会の量子飛躍的な意識の変質がおこり、意識変容が社会変革に繋がる。

ニューエイジが自己のスピリチュアリティと呼ばれ、自己の内面的探求(「自分探し」)が中心的な価値となる。

人間は神性であり、大いなる自己(Higher Self/真我が宿る存在であり、それこそが自分の指導者である。

人間は意識的、精神的に進化する可能性がある。人間の潜在能力の開発をめざす。

人生とこの世は魂の学校、修行の場である。進化する為に何回も生まれ変わる。

Karma()の法則、因縁、輪廻転生など、東洋的な信念をもって、死後の世界までも成長できる。神と人間の媒介になる存在、天使、守護霊、スピリチュアルマスターなどが指導してくれる。

唯意識論的な考え。念力と自己暗示で自分を変えたり、病気を治したりすることが出来る。「現実は自分で作る」といい、「ポシティブ・シンキング」によって幸福と裕福を手に入れることができる。

微細なエネルギー(気、プラナ)、オーラとアストラス世界などの話も好み、物質の宇宙全体が最終的にエネルギーか光にすぎない。

万象に対するその介在を根拠とする「偶然性」を否定、自然への回帰、女性性の尊重、身体性・主観的体験の重視、論理的思考に対する直感的理解(「気づき」)の優位、感覚や欲望の肯定、旧来の社会道徳の否定と極端な自由主義の思想も信条要素としてあげられる。

ニューエイジ宗教は「パッチワーク宗教」とも呼ばれ、時代と文化圏を問わずに「都合のいい」部分を折衷主義的に取り入れ、一人一人が自分の宗教を作ることになります。宗教の「私事化」とも呼ばれる現象です。それが可能になる前提として、宗教の自由の保証と情報社会があります。世界のあらゆる宗教、密教、修行方法等についての情報が入手可能になり、個人的なレベルでも「実験的」な宗教の比較ができるようになりました。人類の歴史の中で初めてのことで、それを実践しているのがニューエイジ支持者です。

ニューエイジ宗教は、とても多様的でゆるやかなネットワーク型のグローバル的な現象です。島薗 進は、ニューエイジと精神世界の普遍的で適切な呼び名として、「新霊性運動・文化 = New spirituality movements and culture」と名付けました。

インターネットとニューメディアをうまく利用してウェブサイトとブログなどによってのバーチュアルコミュニティを作りあげています。専門雑誌、あるいはニューエイジと関係ある出版社があったり、研究所、道場をもち、自己開発セミナー、ワークショップ等を開いたり、ニューエイジ音楽のコンサートを組織したりもします。ニューエイジ祭り、映画祭などもあります。商品化の象徴的な行事としてスピコンという「スピリチュアル蚤の市」が、定期的に欧米や日本の大都市で開催されています。

ニューエイジに傾倒する者は非合理性を重んじる自己陶酔的な新ロマン派であるという批判は最初からありましたが、ニューエイジ宗教は現代社会の「宗教の自由市場化」に合った独創的で想像的な形態であると思われます。

参考文献

Faivre, Antoine

Accès de l’ésoterisme occidental. I & II. Paris : Gallimard 1996 (= Bibliothèque des Sciences Humaines)

Hanegraaff, Wouter J.

New Age Religion And Western Culture. Esotericism in The Mirror of Secular Thought. New York: New York State UP 1998

伊藤雅之、樫尾直樹、弓山達也(編)

スピリチュアリティの社会学。現代世界の宗教性の探求。東京:世界思想社 

2004

島薗 進

スピリチュアリティの興隆。新霊性文化とその周辺。東京:岩波書店 

2007

York, Michael

The Emerging Network. A Sociology of the New Age and Neo-pagan Movements. Boston & London: Rowman & Littlefield 1995

Published in:

Hyogo, Sei to shi o kangaeru kai/Kaihô - Bulletin 40 (Oct. 2007), 7-11